第139回

で、そのインスタントコーヒーの味は、どうなのよ?
という所でしょうが、ここで閑話休題です。

短編小説第139回です。
コーヒーでも飲みながら読んでいただけると、これ幸いです。

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「真っ昼間からこんな店に来るなんて、いけないんだぞっ!」
 ミナミちゃんだった。風俗店に、ミナミちゃんがいた。
 ミナミちゃんだけではない。月に代わりお仕置きしてくれるおねいさん(SM
専門)やぷりてぃできゅあな女の子(ロリ専門)もいた。
「おや? 時間旅行者だぞっ」
「ここって、フー……ですよね? あなたがお相手を?」
「生きていくには、仕方がないんだぞっ。私たちはもうアイドルじゃないんだから!」
 ミナミちゃんは、ミナミ嬢になっていた。
「僕の時代では、『俺の嫁』だったのに」
「コンビニがあれば、嫁もいらない価値観になったんぞっ」
 なんと味気ない。いや、コンビニは味付けが濃いからこそ、そうなったのか?
「しかし俺の嫁がオカズになるとは。あれ? じゃあ、“今”のオカズって何ですか?」
「性欲は、出生時に削除されてるよっ」
「……繁栄の危機だ」
精子卵子が生産できれば、問題ないんだぞっ。これで少子化の心配なし!」
 生殖行為は、もう存在しないということか。
「精神面を充実させようとする人は、ろくでなしって呼ばれるんだからっ!」
 まさにろくでもない目的で遠出してきた。趣味や余暇を顧みない働きぶりと比べられたら、そうなってしまうだろう。
 明るい光が差し込む窓を覗き込んだ。外には確かに“生産性”の高そうな男女がたくさんいる。脇目もふらず、誰もが一心に働いている。つまり、点滴で栄養を与えられながら眠っている。
 かわいいミナミちゃんは、必要ない。こんなにハイテンションで、活き活きとしたミナミちゃんは、ここではろくでなしの象徴だった。

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短編小説第139回、テーマ「ろくでなし」でした。

……ちょっとわかりにくかったかな。
「ろくでなし」と言えば、小島麻由美さんのカバーがいいですね。


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