第133回

短編小説第133回となります。
個人的には好きな話なのですが、ちょっとわかるかわからないかで、面白さに差が付いてしまう話になってしまいました。

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かぐや姫って言ったのかい?」
 外はまた激しい雨が降り出した。熱帯特有の天気だ。おかげで、元岡(もとおか)は、ハジの言ったことが聞き取れなかった。
 ハジは現地採用の真面目な青年だ。上司である元岡に対し、相談に来た。てっきり、社内恋愛中の山本優子(やまもとゆうこ)と、結婚することか、と思った。
「ユーコに言われたんデス。私と結婚スルつもりなら、あのにわか雨をトッてほしい、と。同じニホン人のボスなら、わかるんじゃないかと思いマシテ……」
 なるほど、確かに要望の無茶具合は、竹取物語に似ている。だからといって、山本が何を言わんとしているのか、ハジを通してではわからなかった。
 山本のハジに対する気持ちは、確かなものだ。この地に所帯を持つことも、異存はないだろう。
「恥ずかしがり屋の彼女のことだから、照れているだけじゃないかな」
 ハジは曇った表情で頷いた。彼にしても、山本のことを本気で愛しているからこその悩みだ。
「ユーコは、本当に恥ずかしがり屋デス。私の前では、トイレにも入りマセン」
「女性としては、聞かれたくない音だろうからねえ」
「よくオナカを壊すと言っていマシタ」
「日本には、あの音を消してくれるトイレもあるんだよ」
「ニホンは本当にすごいですね」
 ハジは、またうなだれた。「それにシテモ、雨をトッてこいとは、どういう意味なんデショウ」
 雨音がいっそう強くなった。元岡はハジをなぐさめる言葉をかけたが、かき消された。
 山本は何を望んでいるのだろう。
 元岡には、答えがすぐ近くにあるような気がしていた。

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短編小説第133回、テーマ「スコール」でした。

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