これは……Just a 堕落論だぜ? 角田光代『トリップ』

トリップ (光文社文庫)
角田 光代
光文社
売り上げランキング: 206176

正直あまり期待しないで買ったのだけど、これが思いの外よかった。
先の『パラレル』といい、今回の『トリップ』といい、今年の私には、カタカナ四文字の本が合うのだろうか。


『トリップ』は、同じ街を部隊に、顔見知り程度からストーカ気味につながっている男女が主人公となる短編集。
その全員が、どうにもうだつの上がらない状況や、自身の責任や踏み出す勇気のなさ、怠惰により最悪の状態に追い込まれている。
あるいは、最終的にそうなる。


簡単に言うと、情けない連中なのだ。
しかし、どうにもこの主人公達は、この状況からはい上がらなくてはならない、という危機感や当人意識が薄い。
あるのだけど、「まあ、明日からでもいいんじゃね?」「俺のせいでもないし」「こことは、いつかおさらばするつもりだから」という甘えが見て取れるのだ。


しかし、これをムカかつく感じに書かれてはいない。
物語は、決して暗い街の退廃的なムードが書かれていない。
これは、私をはじめとして、おそらく人間ならば誰もが持っている怠惰だ。
このどよーんとした曇りの状態を、むしろ、自己の特徴としてはにかんでいる、そんな陶酔が見て取れるのだ。


読み進めていく内に、「なぜこのタイトルにしたのだろう?」と『トリップ』という言葉を疑問に思うが、全体を通せば、この主人公達の生き様が、まさしくそうだ。


そして、人間誰もが、このトリップを少なかれ、持っているのだろう。
堕落した人間の一見正常な生活をとらえた、おそらく後世に残らない名作だ。


★★★★★