第129回 その2
短編小説第129回、後編となります。
これが年内最後の更新になりそうですね。
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「いっそのこと、自分で都合のいいようにトンだらどうだ?」マツナミが言った。
うまく闘っているという夢ばかりを見せられる。しかし現実は絶望。彼もそろそろやめにしたいのだろう。ユウカは、否定する気持ちが起こらなかった。
「どうせ、今日も敵を撃ち落とす記憶を植え付けられるんだろ? その前に、自分の好きなようにラリっちまった方がいい」
マツナミはポケットからカプセル錠剤を一つ取り出した。ユウカは黙って受け取る。目の高さにつまみ上げて、太陽の光に透かせた。
飛ぶことが夢だった。
戦争が、職業にしてくれた。
しかし軍はいつの間にか死んでいた。
巨大な国は、巨大であるが故に、自らの体重を支えられなかった。だから、空を飛ぶ者達に破れた。
「マツナミ、また会おう」ユウカは、錠剤を口に含んで、一気に胃に落とし込んだ。
目をつむって、薬が効いてくるのを待つ。眠りが優しく包み込んでくれることを期待したが、激しい音に叩き起こされた。
それは、歓声だった。砂嵐のように無数の人、人、人……。大地を轟かせる唸りだった。
「お待ちしておりました、ユウカさま」
誰かがユウカを揺すった。灰色の肌をした瞳の大き……過ぎる人間の形をした生き物だった。
「戦争は終わったの?」ユウカは尋ねる。
灰色の人間は頷いた。「ええ。あなたが全員倒しました。今日はその記念セレモニィではないですか」
そうか、終わったか。ユウカは観衆に手を振って答えた。
人類の進化は次の段階に移ったのだ。
過去を振り返るとき、このステップは断層のように、大きな隙間を見せるだろう。
飛んだから、生きることができた。ユウカの人間としての生も、そこで終わった。
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短編小説第129回、テーマ「鳥」でした。
本年も、ありがとうございました。