122回

短編小説第122回となります。
今回は、また(?)三回ものです。
こっちの方がやりやすいわけではなくて、連載ものの方が区切りやちょっと長い、けどすぐに完結させなければ成らないプロットが難しいので、よくやっている次第です。

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「やや、やってねえってい、言ってんだろ」
 取調中の男が、態度を急変させた。
 えんえんとシラを切る男に業を煮やした越谷(こしがや)が、タバコに火を付けた瞬間だった。男はぶるぶると震え始め、ぎょろぎょろと血走った目を上下左右に動かした。高そうなスーツを身にまとい、こちらをバカにするような目つきのいけすかない男だった。
 シャブだな。時間切れか――。
 タバコの煙をきっかけに、身体がシャブを求め始めたのだろう。ひっかければ違う容疑を認めるかもしれない。越谷は、男の顔に煙を吹き付けて、同じ質問をした。
「認めちゃえよ。夏服にムラムラときたんだろぉ? 被害者は、お前が何か白いものまで出したと言ってんだ。公衆の面前で、ずいぶんと気持ち良かったみてえじゃねえか」
「……いいものか」
「あ?」
「気持ちなど、いいものか」男は、ぼそぼそと呟いた。小さな声だったが、怒りが含まれていた。
 そろそろ落ちる――。しかし、越谷は踏み込むことができなかった。男の様相は、また変わり、テーブルの上で両手の指を組んで、今度は静かにこちらを見つめていた。
「お巡りさん、親はまだ生きてんのかよ?」
「あ? ああ。孝行はしてねえけどな」
「俺の家は、たばこ農家だった。他の作物と違って、たばこは、会社が買い取ってくれる。裕福ではないものの、生活は安定していた」
 男が何を言いたいのか、越谷にはわからなかった。しかし妙に引き込まれる口調だった。越谷は男に好きに喋らせた。ころころと表情を変える男が、少し怖くなっていた。
「大人は、あの葉っぱをうまいと言うだろ? 俺は興味がわいて、自分もやってみようと思った。畑に火を付けてみたんだ。ところが、これが一気に燃え広がった。ウチは一瞬で潰れちまったんだよ」

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短編小説第122回、三回ものの第一回目でした。
ちなみにこれを書いていたのは6月でしたが、まさか時事ネタと絡むとは……。