第119回

短編小説第119回です。
今回も1回ものです。
誰かさんが、好きそうな話です。

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 ある男がいた。男にはどうしても手に入れたい女がいた。彼女ほど心惹かれる存在はなかった。
 男は当然、女に告白した。しかし、想いは受け入れられなかった。もっといい男になろう。男は女に振り向いてもらえるよう、勉強し身体を鍛えた。金も名誉も手に入れた。
 だが、女は別の男性と結婚した。男のアプローチは、まったく受け入れられなかった。男は尋ねた。私の何がいけないのだろう、聞かせてほしい。
 女は言った。あなたが悪いわけではない。あなたは悪い人ではないが、どうしても好きになれなかった。あなたを生理的に受け付けなかった。
 男にとって、あまりにも残酷な答えだった。それでは、どんなに男を磨こうとも、どれだけ彼女を愛しても、伝わる想いに昇華しなかった。
 女はすぐに離婚し、さまざまな男性と浮き名を流した。あきらめきれない男は、その度に女にプロポーズした。しかし、女は他の男性ばかりに心を寄せ、男には絶対になびかなかった。男以外の男性を受け入れた。
 男はいつか願いが通じる時を信じ、さらに努力した。人間的にも、右に出る者はいないすばらしい大人となった。だが、女はさまざまな男性と交わる内に、トラブルに巻き込まれ、事故と病気のどちらともわからない理由で死んだ。
 男はひどく絶望した。今やすべてを手に入れた男にとって、ほしいものは、彼女だけだった。あれほど反発し、自分を寄せ付けないのも、彼女だけだった。男の手には、多くのものが残ったが、一番美しいものは、手に入らなかった。女の隣を歩くこと、そして最後までベールに包まれた女の見たことのない部分だった。
 きっと、何かがまちがっていた。男はその手で自分を慰めた。

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短編小説第119回、テーマ「コルク」でした。