第115回、その二

こんばんわ。
短編小説第115回、その二のお時間です。


世間は、憂鬱な月曜日かと思いますが、私は現在若干ホラー系の小説を読んでいて、神妙な気持ちです。

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 仏壇と壁の隙間は、五センチもないほど狭かった。その向こうに身体を入れるなど無理だ。小さな子供のヨウといえども、すり抜けられるわけがなかった。
 あるいは、子供だったから、かもしれない。
 しかしヨウは、話しかけてくる不思議な声に頷いていた。
「うん。そっちに行きたい」
 声がもう一度尋ねてきた。
「来て、どうしたい?」
「え、えーと……」
「難しく考えなくていい。なぜ、こちらに来たいと思った?」
「……見たいから。そっち側」
 声の主は、少しだけ返事を遅らせた。頷いた時間のようにも思えた。
「手を伸ばしてごらん」
 ヨウは、言われるがままに手を差し出した。眠気を誘うような柔らかさで、身体を引っ張られる。
 怖いのは、一瞬だけだった。あっという間にたどり着いた。目的地だとわかった。あの隙間の奥ということは、すっかり忘れていたが、身体がふわふわと安定している場所にあって、悪い感じはしなかった。
 隙間だったはずの空間に、少しも窮屈さも感じていない。思い切り両腕を伸ばせそうだった。むしろ、手を伸ばさないと、ここがどれくらい広いのか、わからなかった。
 そこは真っ暗だった。
 何の光もない。黒一色の世界。
 しかし、おかしい。
 ヨウの短い人生の中でも、異質と感じる雰囲気があった。……光がないのに、いろんなものが見えた。聞こえた。
 母が自宅に帰ろうとしていた――。
 会社に行っているはずの父親が見えた――。
 お友達のショウタ君が、おもちゃをねだっていた――。
 幼稚園の先生が裸でプロレスしていた――。

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Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)
短編小説第115回、その二でした。
あと一回続きます。