第114回、その二

短編小説第114回。
今回は全3回の連続ものです。
火曜日が過ぎて、そろそろ疲れてくる頃に、続きが気になって、もんもんとしてくれれば、幸いです。

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 その同乗客が冗談を言っているのか、真剣に仕事を持ちかけているのか、その表情は窺えなかった。
「ルナで我々の子種を売るのです。高値で取引できますよ」
 アスはすぐに納得した。
 大きな声では言えないわけだ。仕事とは、金を払うオンナと寝ることを意味していた。
 女性統一制を貫くルナでは、政府の管理しない勝手な性行為は厳罰の対象となる。きちんと政府管理下に置かれた病院で着床の履歴を取らなければならなかった。妊娠した場合は、極刑になる場合もある。
 それ故に、オトコとの性行為には、他の星で言うところのドラッグと同じような黒い憧憬がまとわりついた。子供に他の星の血を入れることは、美しくも猟奇的な道楽だ。
 ルナの社会問題――。
 ルナ出身者を含む他の星からの渡航者は、性別が判別できないように変装させられた。アスもこうして大げさな格好で姿を隠しているのは、法律に従ったからだった。
「しかし、我々が滞在できるのは三日間だけです。その依頼は、寝るだけじゃなく相手のジョセイがきちんと妊娠しなければ、成立しないのでは?」アスは訊ねた。
「いえ、行為でまず基本金。着床すれば、オプションがつきます」
「そういうことですか」
 客は不特定多数でなく一人だ。快楽を楽しむ特権階級――。この渡航者は、オトコをむさぼるために星々を行き来しているエージェントなのだろう。アスが仕事を引き受けると、連絡先をくれた。
 帰省を一日早く切り上げる。母親も妹もひどく残念がったが、アスは上機嫌だった。
 いやらしい気持ちよりも、悪事を働くという後ろめたさがアスを興奮させた。
 しかしやってきたオンナを見て、驚いた。
 ルナの惑星大統領、その娘だった。

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短編小説第114回、その二でした。
次が最終回となります。
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