第112回
短編小説、第112回となります。
まあ、口直しにどうぞ。
今回は、一回終了ものです。
そういう意味では、いつもの調子?です。
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停電の夜、男は妻と不思議なゲームをした。男にとっては、罰ゲームと言った方がいいだろう。暗くて何もできないから、と妻が言い出したことだった。
ゲーム内容は、結婚するまでの恋愛体験を告白するというものだった。細いろうそくに火を灯し、一本が燃え尽きるまで、一つの恋愛話を詳細に述べる。小さな炎だったが、顔を近づけると、ヒリヒリと痛みを伴った。
なにより、過去のこととは言え、他の女性のことを妻に語るのが、恐ろしかった。こんな時に限って、停電は長引いた。
男は同時に、妻の話に驚かされた。
同い年の二人が出会ったのは、三十歳になってからのことだった。
男にはそれほど多くの経験がなかったが、妻にはこれまでの人生でさまざまな恋愛があるだろうと覚悟していた。完全な貞淑は求めていなかった。だが、おとなしい妻の口から不倫や雑誌への写真投稿など生々しい話が出てくるとは、夢にも思っていなかった。
ろうそくが燃え尽きるまで、せきららに過去を話す妻と違い、男の話はく平凡で平和的なものだった。
停電は長く、残りのろうそくの本数に対し、男の恋愛経験はあまり残っていなかった。
また一本燃え尽きる。
これでは、小学生の頃あこがれた先生の話でもするしかないだろう。男はため息をつく。妻が、こちらをじっと見つめていた。
過去の恋愛話はもうない。男は取り繕うが、妻は納得しなかった。男は妻と結婚する直前の恋人までを話しきっていた。
ろうそくの炎が、やけに激しく燃焼している。
男は、それほど多くの経験をしてきた男ではなかった。過去の話は、もうなかった。過去の話は……。
妻の瞳には、何か確信めいたものが映っていた。
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短編小説第112回、テーマ「トナー」でした。
個人的には、こんな怖い奥さん、見てみたい。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)