第108回

短編小説第108回となります。
今日は早めにアップしておきます。
そろそろ110回が見えてきました。

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 森の子狐クゥは、ある日、まん丸で金色のお菓子を見つけました。
 鼻を近づけると甘いにおいがします。口に入れたら、幸せになれそうです。
「お母さん、これ、食べてもいい?」
 尋ねると、お母さんは首を振りました。
「だめよ、それはたぬき達の罠よ」
 森ではきつねとたぬき達が、ずっと戦争をしていました。時には、毒入りの贈り物が届けられました。
「嘘だ、お母さんは嘘をついているんだ!」
「毒が入っているのよ、クゥ、信じて」
「嘘だ。自分が食べようとしてるんだ」
 お母さんは悲しい顔をして、クゥをたしなめました。
「じゃあ、お母さんが一口だけ食べます。毒がなかったら、残りはクゥにあげるから」
 クゥはやっと大人しくなりました。お母さんはビスケットを一口かじります。すぐに、激しく苦しみ始めました。
「お母さん、お母さん? ごめんなさい。本当にたぬき達の罠だったんだ」
 お母さんはやっとの事でクゥに言葉をかけました。
「クゥ、お母さんを信じてくれる?」
「うん。信じるよ。ごめんなさい」
「本当に、信じてくれる? ずっと?」
「うん、ずっと信じるよ」
 お母さんはほっとした顔を見せ、そして息絶えました。そして、その亡骸は、たぬきの死体へと変化しました。
「お母さん? ……嘘、どうしてたぬきなの?」
 クゥは今よりもずっと幼かった頃に、血まみれのお母さんが倒れたことを思い出しました。その傍らには、女のたぬきがいました。
 クゥ、辛い想いをさせてごめんね――。
 お母さんの声が聞こえました。
「お母さん、ありがとう。ごめんなさい」
 クゥはお母さんに鼻を寄せます。金色の毛並みからは、甘いにおいがしました。

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短編小説第108回、テーマ「ビスケット」でした。
これを書くに当たって、ビスケットについて調べてみましたが、クッキーとの違いはないんですね、基本的には。