第104回、後編

短編小説第104回の後半となります。
「今のところ100点」がどこまで落ちてしまうのか……。不安でもあり、ありがたくもあり。
いや、読んでいただくだけじゃなく、評価点まで述べてもらって、本当にありがたい事です。

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 川島(かわしま)の言葉を理解するのに、大友(おおとも)は、一瞬の三倍くらいの時間を要した。
 これだけ村民がいない中、死んだのは一人だけ――。
「それは、不幸中の幸いだったな」
 川島が知っているということは、警察が処理したということだろう。大友はひとまず携帯電話を持つ手を下ろした。川島によって、無理矢理降ろされたといった感じだった。
「どうしたんだ? もう片付いているんだろう。少し力を抜け」
「いえ、我々は、すでにクマの神に見つかっいたようです」
 人が死んでいるとはいえ、深刻になりすぎている。大友はそう言おうとして、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
 二人からほど近い草むらを何者かが移動した。風の音を聞き間違えたにしては、あまりにもタイミングが良すぎる。
 川島にも聞こえたのだろう。頬に伝わる汗を構わずに小声で囁く。「村には昔からクマの神のたたりがあったようです。村人が一斉に神隠しに逢い、その内一人は崖からの転落、死体となって発見されています」
「同じ一人……。それが今回のたたりだと?」
「手紙を送ってきた子の父親は、村の悪しき慣習、生贄に反対していたようです」
「それを知っている警察も、一緒に……」
 大友が理解した瞬間に、二人の足下から二メートルほどの位置に草刈鎌が投げつけられた。
「なっ……!」
 青ざめる暇もなく、一気に気配が沸き立つ。一人ではない無数の人間。息遣いが低いうなり声のように響いた。地面に刺さった刃には、うっすらと血の跡――。
「クマの神、人間とは思えない巨大な身体に鋭い爪ってことか」
 迫り来る影は、何人分もが連なって、人間ではない大きさになっていた。

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Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)


短編小説第104回、テーマ「くま」でした。
前編、後編とたった2回でしたが、はじめて連載モノに挑戦しました。
今まで800字制限がむずかしーと思っていたのですが、これはこれでまた難しいものです。
楽しい事です。