第104回前編

短編小説第104回、前編です。
前編?
そう、以前「これからの100回以降は、800字を守りつつも、連載ものにできるものならやってみたい」と言っていたのですが、それをやってみようと思います。
是非読んでください。

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 けいさつの方々へ。私たちの住む村は、クマの神という神様によって滅ぼされようとしています。助けてください――。
「人っ子一人いねえんじゃなぁ」
 大友(おおとも)は、顎まで流れた汗をぬぐった。県境にある寒村だとは聞いていたが、一時間以上も歩いても、誰ともすれ違わない。民家を訪ねても、人影はなかった。
 子供からの手紙が届くことは、珍しいことではない。虐待、いじめ……内容は大人よりも深刻なことが多い。しかし、こういうファンタジィと現実との区別がついていないものが紛れ込むこともあった。どちらにしろ刑事課の仕事ではない。始めは無視するつもりでいた。
「警部! どうしてこんな所に」
 ふいの大声に飛び上がった。部下の川島(かわしま)だった。一人で来たつもりだったが、彼もこの異様さを感じ取っていたのだろう。大友の前で立ち止まったその顔は血の気が引いて青ざめていた。「しかし、遅かったかもしれません」
 大友は首と身体をゆっくりと回し、辺り一帯を見渡した。田んぼだらけの集落は、遠くの山まで視線が通る。やはり人間らしい姿は、見当たらなかった。
「そのようだな。たたりなんて非科学的なことは信じられんが、こりゃあ村民全員がホトケさんかもしれん」
 火山噴火、地震などが原因だろうか。署に連絡し、応援を要請した方がいいだろう。
 川島が首を傾げた。「警部、何を言ってるんです?」
「何って、村が大災害に見舞われたんだろう」
「いえ、誰が死んだ、と?」
「だから、村民の多くが……」
 川島は大友の腕をにぎり、ぐっと顔を近づけてくる。小声で、振り絞るように呟いた。「死んだのは、手紙をくれた子の父親だけです」

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Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)


短編小説第104回、前編でした。
テーマは後半までいってから発表するって事で。


どうかお楽しみに〜。
(このセリフ、この歳になって言う側の気持ちがわかったわ。不安なのね、製作者サイドは)