第101回

短編小説第101回になります。
なんか、アップするタイミングがつかめなくて、こんなじきにアップ。
ストックが結構できてしまった。……一流?


写真は素材集のものですが、きちんと購入しているので大丈夫。

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「先生、お願いがあります」
 女は、病床のベッドから白衣の男を見上げた。
 病に倒れてから数ヶ月。見舞いの客は、最初からいない。孤独な女にとって、男は唯一の話し相手であり、万能の医者だった。
「テレビで観ました。画期的なダイエットが流行っているのでしょう? それを試してみたいんです」
 男は、静かに首を振った。
「君は今、薬の副作用で体重が増えているだけだよ。病気なんだ。気にしなくていい」
「でも、もうよくならない」
「そんなことはない……」
「うそ」
 女は遮った。隔離された病室。少しずつ弱くなる薬。この部屋には、あきらめた雰囲気が煙のように漂っていた。
 ……いや、本当に煙かもしれない。嗅覚が弱くなっていて、花瓶に差してある花の臭いすらしなかった。
「先生、せめて美しく逝かせてください」
 男は瞳を閉じ頭に手をやった。軽く背中を曲げ、震えている。女からは、その表情は窺えなかった。申し訳ないが、頼めるのは、彼しかいない――。
「どんなダイエット方法だった?」
「ええ。ロッカーみたいな細長い箱に入り、身体をその細さに合わせるんです」
「そう。健康な人でも辛いダイエットだよ?」
 女は吹き出した。「私、もうこれ以上辛いことなんてないわ」
 女のためにその箱が用意されたのは、一週間後だった。男が蓋を開ける。眠りについた女が横たわっていた。
「すごく痩せたじゃないか。君はもう、太ることはない」
 女は答えない。声を出す代わりに、欠けた身体の一部を箱の中に落とした。かけらは白く固かった。

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短編小説第101回、テーマ「スレンダー」でした。
まだまだ続くよ!