第90回

短編小説第90回です。
91回目をさきにやっていたため、飛び抜かしていた回になります。
クリスマスというワードがあるから、
こっちの方をさきに公開すべきだったかな。

                                                                                • -

 ――前略。クリスマスも近くなり、街が甘く色づき始めた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
 今日は是非僕の将来の計画を聞いてほしくて、手紙を書きました。
 僕は修士を終了しても、博士課程にまで進もうとは思っていません。
 研究職に就こうと考えていないからです。研究職でないなら、すぐに就職した方がスキルアップにもいい影響が出ると思っています。
 出世は業績によってカバーしていく方が、正しい道というものでしょう。
 恒久的によい結果を導き出せるようなシステムを、すでに考えています。今話題になっているタスクアウトソーシングを、もっと発展させたものです。
 アジア諸国など、私が手を動かさずとも、もらう給料の半分をつかえば、割り振られた業務をこなす人材を雇うことができます。つまり、二倍の業務をこなすことは、全給与を得ながら、まるまる時間をあけられることを意味するのです。お金を稼ぎながらも、あなたと共に過ごす時間を作ることができます。
 詳しくはお話しできませんが、あらゆるリスクをすでに洗い出し、それらを補完するシステムを設計中です。……。
 そこまで読み終えると、智沙(ちさ)は顔を上げた。美しく成長した妹の相談事は、いつもうらやましいばかりだったが、今度ばかりは度肝を抜かされた。
「結婚……するの、この人と?」
「悪い人じゃないから、困っているのよ」
 妹はぼーっとして、毎日を優雅にすごすタイプだ。あるいは、こんなしっかりした人が合っているのかもしれない。
「これさ、ラブレターなんだよね?」
 A4用紙にワープロ書類のような格式張った書式だが――。
 妹には、幸せにはなってほしい。
 だが、素直に勧めることはできなかった。

                                                                                • -


短編小説第90回、テーマ「リスク」でした。
89回目の「リ」、91回目の「ク」の間になるから、
この単語になるんですね。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)