第91回

一回飛び抜かします。
友人からお題をいただいたので、
クリスマスプレゼントがてら。
内容もちょっと恋愛絡みなので、
クリスマスには、ちょうどいい……。


恋愛もの……。
っぽくないか。

                                                                                • -

 近くの商店街から聞こえるジングルベルが、妙に寝ぼけていた。
 自分のビートの方が高鳴っているのだから、当たり前かもしれない。永遠のように苦しいこの十分間。
「なんとか言ったらどう?」
 睨み付けてるのは、学校で最高の美人である佐藤(さとう)さんだった。放課後公園に行こうって誘われて、ホイホイついてきてしまったのがマズかった。
「まさか、あんたがチエの彼氏だったなんてね」
 チエはキスまでした彼女で、佐藤さんのテニス部仲間でもある。こんな寒空に突っ立っているハメになっているのは、浮気の調査という情けない理由だ。相手は、探偵に送り込まれた佐藤さん本人なわけだが。
「チエいい子よ、どうするの?」佐藤さんは、ますます上目遣いになった。
「どうするって……」
「ちゃんと謝るの?」
 もう手遅れだ。傷は深い。消毒液を塗ったら、染みるのは自分だ。
「だからさ、このまましらばっくれましょうよ」佐藤さんははそっと、唇を近づけた。――そうはさせるか!
「はいそこの二人、待ちなさい!」
 猛ダッシュで飛びかかる! 私は二人の身体を引き離した。
「え、な、なに、チエ?」
 あまりのことに、肝を冷やしたのだろう。二人は青ざめた顔を並べ、私を指さして、口をパクパクとさせていた。
「チエ、いや、これは違うんだ」
「チエ、どうしてここに……」
 今年もこれで仕事納め。最後は盛大に締めくくろう。私は深呼吸して、涙ながらに説明する。
「私も佐藤さんの彼氏から、仕事を依頼されていたのよ!」

                                                                                • -


短編小説第91回テーマ「くの一」でした。
恋愛もの……。
っぽくないですよね。


ちなみにこの短編小説は、しりとりで回しているので、
90回は「く」で終わる単語です。
89回は「ストロベリー」だったので、
「リ」で始まり「ク」で終わる言葉です。
順序逆になるけど、次に載せます。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)