第80回

短篇小説第80回です。
いよいよ、80回って感じなのですが、
どこぞの萌えアニメ(?)と同じくちょっと、描写が
アレなので、公開を渋っておりました。


でも、このブログのアクセス数だと、
全然影響ないですからね……。

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 涼しくなり始めた初秋に寝具を取り替えた。
 これでゆっくり眠れる――。そう喜んでいた父は、その晩に出かけてしまう。奈津(な
つ)は贅沢にクーラを回し、静かで幸せな眠りについた。……はずだった。
 眠れない。体が重たかった。真冬並みに設定した温度に、顔が火照る。
 女のすすり泣く声が聞こえたような気がして、父の寝室に向かった。
「お母さん……!」
 驚いた奈津に、母はゆっくりと振り向いた。
「どうしたの、こんな時間に?」
「お父さんに会いにね」
 母と別れて一年が経っていた。苦労ばかりだった横顔、さらに青白く痩せている。
「お父さん、いないよ」奈津は恐る恐る切り出した。
「今日もあの人のところ?」
「ううん。最近は、また別の女の人のところ」
「そう」母はベッドに腰を下ろした。うつろな目で、父が使っているまくらをゆっくりと
なでる。悲しんでいるのか、それとも過ぎ去った日々をいとおしんでいるのか、奈津には
よくわからなかった。「まくら、換えたのね」
「あ、うん。今日ふとん屋さんに行って、私のも……」
「じゃあ、眠れないんじゃない?」
 頷こうとした瞬間、母の姿は消える。
「お母さん……」奈津はその場に立ちつくし、一人手を合わせた。「まくらもとにはもう、
立ってはダメ」
 父が事故にあったという電話が入ったのは、朝になる前だった。
 一ヶ月の入院予定。それは希望で、父はもう、病院のまくらしか使えないだろう。安心
した、眠りにつくまで……。
 自分だけが、眠れない夜を続ける――。
 眠れないまくらは、取り換えた方が眠れるのだろうか。奈津は空になった父のベッド
で、母の香りを探した。

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短篇小説第80回、テーマ「まくら」でした。


上記の続きとして。
こういう事件が起きると、マスコミはえらく
過剰反応(=扇情)に走るようになって久しいけど、
気にすべきは描写ではなく、価値観だろう。


猟奇的な行為を美しいと描く描写自体が悪いのだけど、
なぜ殺人や暴力を美しく描く価値観を持っているのか。
漫画にしろ、映画にしろ、小説にしろ、
安易に「手法」にしすぎていないか?


登場人物が死ねば大ヒットのプロットと
大差ないように感じるんだが。




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