第79回

短篇小説第79回です。
ちょっと今週末出かけるので、今日更新します。

                                                      • -


 昼食を終え、イラキとヨーコは次の講義に向かうことにした。
「ホシカワ先生ってどんな授業をするの?」一年生のヨーコは、教授達の性格や癖がつかめていない。イラキは人差し指をたてて説明した。
「そうだね、あの先生の講義を受けると、今という時間を意識するになる」
「今? 哲学的ね」
「いや、とっても現実的だよ。種を明かせばタイムスタンプなんだから」
「タイムスタンプ?」
「そう。あの講義では同じ時間のタイムスタンプが飛び交うことになるんだ」
「それってタイムスタンプじゃなくて、単なるテキストのコピーじゃないの?」
「まあ見てなって」
 二人は席に着き、ノートPCを広げた。同じ講義を受ける学生達が、チャットルームを開いている。眠気が最大限の出力を迎えたときに、発言が活発になった。
「ヨーコ、ほら」イラキが画面を指さす。教壇ではいつか聞いたことのある談話が繰り広げられていた。
『この話前にも聞いた。いつだったっけ?』
 この質問に、参加者が一斉に返答した。
『一ヶ月前の八月二十日』
『八月二十日じゃない?』
『八月二十日の十一時二十分』
「あ、確かにタイムスタンプみたい」ヨーコが面白そうに目を見開いた。「この話、またいつか繰り返されるのね」
「ヨーコも今を憶えておくといいよ。なぜかみんな、この遊びに夢中になるんだ」
「講義が退屈ってことじゃない?」
「先生は一生懸命講義をされている」
「先生は今を生きているのね。去年の学生と今年の学生の見分けもついてないはずよ」
「だから、同じ話になるのか」イラキは口を曲げて、頬杖をついた。

                                      • -

短篇小説第79回、テーマ「今」でした。


私が大学の頃には、もうノートPCでメモをとるのは、
当たり前だったのですが、
決してそれが万能ってわけでもありませんでした。
つか、重かったので学校まで持っていく機会も
あまりなかったし。


ただ、このような光景は結構繰り広げられていたのですが、
今だったらノートPCどころか、PDAやケータイに
なるんですかね。



Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)