第73回

世間は選挙みたいですが、
私は短篇小説です。


最近ダイヤリー自体を更新できていないし。

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 今にも壊れそうなあばら屋を前に、たたずむ女が一人。意を決して軋んだドアを開ける。暗闇の中から義母がろうそくを持って現れた。「おかえり、実佐子。ゴホッゴホッ」
 実佐子は床板に穴を開けないようにそろりと玄関を上る。「起きてちゃダメじゃない」
「だけど、お前一人を働かせて……」
「それは言わないルールでしょ」
 明るく遮った顔に、疲れが隠せないでいる。
 せめて、兄が一緒にいてくれたなら――。実佐子は深いため息をついた。
 夜明けと共に、駅前に立つ男が一人。名を劉生。ぼろぼろの僧衣を着て、今日も托鉢に出向いていた。
「あの乞食、いっつもいるんだよな」心ない言葉が胸に響く。格好だけの僧侶、そう思われても仕方がない。
「職を変えるほうが、救われるのか?」仏門から離れられない。寺にいても暮らしていけないから、こうして恵みを乞うていた。
 別れた妹は無事だろうか――。疲労困憊で、もはや経もひねれない。一人涙をのんだ。
 ロータリに車が一台停まった。小学生と思われる少女の後に、見覚えのある顔。
「兄さん……」実佐子だ。ついにこの時が来たのか。劉生は我が目を疑った。
「今日で終わりですよぉ」少女がにこやかに言い放つ。兄妹は手を取り合った。
「実佐子、辛かったか? 俺の方が大変だったと思うが」
「私なんか、知らないおばさんと親子よ?」
「俺は乞食扱いだ」劉生は少女に顔を向けた。
「どうですかぁ? お金持ちのお二人が一度味わいたいという貧乏。十分にご堪能されたかと思いますがぁ?」
 劉生は襟元をゆるめる。緊張が解けて、スーツ姿でいる時のクセが出た。「ああ、確かにしんどかった。若いうちに買っておいてよかったよ」
 実佐子も深く頷いた。

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短篇小説第73回、テーマ「苦労」でした。
T原総一朗「写真がないのはなぜ何ですか?」
松本空蝉「えー……。手応えはありました」
T原総一朗「手応えがあったのに、更新がないのは、なぜ何ですか?」