第23回
短篇小説第23回、昔のものの写しです。
最近書くほうばっかりで、
移してなかったな……と。
でも、自分で見ても、よくないんですよね。
昔のものは。
今がいいってわけじゃないけど。
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「こ、これは、な、なんてうまそうなんだ」
冬休みの宿題も佳境。最後に残った『思い出』のスケッチ、一番記憶に残ることだろう。 智佳はようやく入れ替わった永久歯を誰ともなく披露する。パレットには偶然が生み出した、奇跡のような黄色が載っかっていた。
「と、父ちゃん、さっき焼売チンしてたもんなー」胸を押さえる。「この偽マスタードを食べたら、どんな反応するんだろう」
好奇心は良心の呵責をも、簡単に上回った。“とろみ”もまさしく本物。
「と、父ちゃん、これつけて食べなよ」
差し出すと、父親は「お、マスタードかー、智佳も通だなー」とうれしさを隠さなかった。爆発しそうなワクワク感。ゴルフの勝敗よりも知りたい続きは、ブラウン管の外側にある。
「父ちゃん、こっちの方が好きだなー」
しかし、テレビに夢中の父親は、思った以上に保守的だった。一つ焼売を串刺す。……いくか!? いや、醤油だ。いくか!? 攻防が続いて、残り1個になってしまった。
「じゃあ、せっかく用意してくれたんだから」
不安に涙を溜めた娘の視線が、没頭をようやく打ち切る。ああ、やっと……!。箸は器用に小皿に存在する黄色をすくった。ついに、剃り残しの真ん中に……入った。
「ん? んんー、んんー!」
父親は口を押さえ、立ち上がる。台所へと駆け出て行った。――やった! 智佳もその後ろ姿を追う。「お母さん、このマスタード、腐ってるぞ」
腐ってる――。しばらくして聞こえた焦った言葉が、妙に智佳の胸を突いた。沈黙の後、あきれた声が返ってくる。「焼売にマスタード? からしじゃなくて?」
な、何? 世の中にそんな調味料も存在するのか? 軽くショックを受ける智佳。「どうしようもない、馬鹿ね!」
崩れ落ちた。「き、効いたー……」そういえば、遊んでいる場合でもなかった……。
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短篇小説第23回、テーマ「マスタード」でした。