第68回

短編小説第68回です。
そろそろ夏です。
梅雨のはずですが。

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 エデンの果実をかじったのは、アダムだったかイブだったか。
 僕らの祖先だろう。ぼうやはその球体を前にして、小さな胸をふるわせた。
 草原のような緑に、黒い稲妻模様。魅惑的で堪能的な丸さ。赤い液体が流れ出て、一本の道を作っている。
 ぼうやが見つけてきたのね? お手柄よ。きっと、一族が反映するわ――。ぼうやのお姉さんが肩を抱いてほめてくれた。
 たまらない。早く食べたい。短い人生と言っても、もう二百年は生きている。かつて、これほどときめいた食べ物があっただろうか。首筋にかぶりつくのは、こっちだって気が引けるのだ。代わりがあることに、こしたことはない。
 果物かな、野菜かな――? 誰かが囁いた。どちらにも見える。メロンよりも大きい直径。
 きっと果物だよ。こんなにおいしそうなんだもの――。ぼうやのお姉さんが反論した。野菜でもおいしそうな形のものはあるよ。きっと野菜だよ――。
 どっちでもいいよ。早く食べよう――。
 くすくす、笑い声が響く。子供たちは頬を寄せ合った。漆黒のマントに青白い肌。彼らは、吸血鬼の子供。何よりも、血を欲する。
 じゃあ、いくよ――。ぼうやは液体をすくった。赤くにじんだ指先。たくさんの血がつまった食物。もう貧血に困らない。
 血液じゃなかったりして――。 誰かが口を挟んだ。ぼうやは怯む。お姉さんが抱きしめた。促されて、指をくわえる。温かいお姉さんの胸。お姉さんはいつも優しい。抱かれたままいつもまでも眠っていたい。あまぁく、あまぁく。あまぁい。
「あまいよ?」姉弟は顔を見合わせた。血液が甘いなんて……。おそるおそる球体を割る。「た、種がある。果物だ!」
 ぼうや、果物じゃなくて野菜よ――。一同は肩を落とした。

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短編小説第68回テーマ「スイカ」でした。
夏っぽいイメージを作ろうと思ったら、
結局冬っぽくなってしまった。


主人公達は吸血鬼でもあり、
たんなるコウモリともとれるかなと、勝手に思っています。
イメージが広がるなら、どっちでもいいかな。