第63回

短編小説、第63回です。
んと、あんまり枕として言う言葉が思いつきません。

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 とあるボウリング場。二人の老人が、かんばしくもないスコアを競い合っていた。
「大島ぁ、お前さんはちぃっともストライクがとれんじゃないか。スペアが関の山じゃ」ストライクもあるが、ガータもある。結果的なスコアはどっこいどっこいの前川じいさんがつぶやいた。
「カーブがかかって、真ん中に行ってくれんわい」
「股にぶら下がっているのと、同じじゃ」
「いらん世話じゃわい」大島じいさんは口を尖らせる。しかし、すぐにため息をついた。「しかし、一度でいいからストライクをとってみたいもんだのお」
「どう投げても、カーブがかかるんか?」
「かかるのお。どうしても」
「いっそ、もっとかけてみたらどうじゃ。かえって真ん中にいくかもしれん」
「そうしてみるかのお」大島じいさんは立ち上がる。レーンを睨みつけた。
「どおりゃ!」大きめにとったストロークは、いつもよりも大きなカーブを描いた。
「う、うが!」途端、泡を吹いて倒れる。
「お、大島ぁ」 
 あまりの力みに、意識が飛んだようだった。
「か、門倉ぁ。敵じゃあ、右に曲がれぇ」
「門倉は戦争で死んだじゃろうがあ!」
 前川じいさんは大島じいさんの頬をたたく。
「痛い、痛い! なにするんじゃ」無事、正気を取り戻した。
「無理をするな、逝ってもうたかと思た」
「けしかけたのはお主じゃわい」大島じいさんは起き上がり、レーンを確認する。
 大きく曲がりはしたが、曲がりすぎてガータとなっていた。
「カーブ、かけすぎてもいかんのお」
「無茶しても、いいことないんじゃ」
 二人は緩やかなカーブを描く、自分たちの体力を思った。「このまま、下降線を描くのが、一番の長生きのコツのようじゃのお」

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短編小説第63回、テーマ「クロソイド」でした。


でした。
って、あんまりクロソイドって言葉を
知らない人が多いと思うのですが、
高速道路なんかでカーブが必要となる時に、
これくらいの弧であれば、ハンドルの傾きを一定にしたままで
曲がりきることができるっていう曲線をクロソイド曲線といいます。


道路関係の方は知ってらっしゃるかと思います。


クロソイド曲線 - Wikipedia