第62回


短編小説第62回です。
なんでこんな写真なのかというのは、
読めば分かるということで。
こういうネタ好きな友達がいるんだよなぁ。

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 大歓声がスタジアムを揺さぶり始めた。
 初マウンドで初完封。達成まであとアウト一つ。しかしバッタは、今日二安打のラリィ。ランナ二塁三塁の場面。一打出れば同点だ。
「……ダメだ。打ち取れる気がしねえ」ピッチャーのケビンは顔を拭った。知らない間に泣いていた。
「大丈夫、ど真ん中に投げろ」女房役のジョンソンがサインを送ってきた。二人はサインで会話ができるほど以心伝心が効く。
 こいつがいなければ、今の俺はなかった――。泣いているのは、彼への感謝からかもしれなかった。
 無闇に突っ込んでいくタイプのケビンに、球を散らしてバッタを翻弄することを教えたのはジョンソンだ。焦らし、急がせ、そこを突く。
「終わったら一杯どうだ?」ケビンは頷いた。「もちろん、ベッドの上で」
「ああ。マウンド以上に疲れさせてやる」ジョンソンは、マスクの裏でにやけた表情を見せる。
 ケビンはバッタを睨みつけた。
「さっさと終わらせようぜ!」ラリィは腰をくねらせ、打つ気満々をアピールしてくる。ケビンはセットアップから、最大限の力をジョンソンにぶつけた。
「どうだぁ!」一瞬の静寂。
「ストライク! バッタァアウト!」見事、バットは空を切っていた。ゲームセットの声。
「やったぜ!」ケビンはまっすぐにジョンソンのもとに駆け寄っていく。きつく抱きとめたのは、なんとラリィだった。
「うわっ! な、なんだ。お前負けたんだぞ?」
「なかなか積極的なルーキィじゃねえか」ラリィが囁く。
「はい?」きつい胸板の中から、ケビンは首をずらしてラリィを見上げた。
「お前、俺のど真ん中なんだぜ?」首筋にひげが刺さった。

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短編小説第62回、テーマ「ストライク」でした。
モチーフだけが野球です、ね……。

Photo by (c)Tomo.Yun