第20回

短編小説第20回、昔のものの移しです。
「これって技術職かウェブ関連の人じゃないと……」と
言われてしまったものです。
このレベルでも……まあ、そうか。

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 教室が騒めいている。不思議そうに頷く者もいれば、ノートパソコンを指さし、証拠を示す者もいた。「おまえもだ……」
 ここはコンピューターの専門学校。1組ははネットワーク技術者を育てるコースだ。メールアドレスは全員に配られている。
「一人残らず全員。みんなってことか?」
 教師が首を傾げた。身に覚えの無い差出人から、クラス全員にメールが届いたのだ。しかも、時刻がみんな一緒。前日の23時59分。訳が分からなかった。
「先生、学校の個人情報が漏れているって事はないでしょうか?」
 手を上げたのは、教師がいちばん将来を有望視している杉村。首を振る。
「万全を期しているし、失礼だが、学生の財布を狙うほど、犯人もバカじゃないだろう」
「でも、このクラスだけで、かつ、全員ですよ? 可能性は高いのでは?」
 次々と疑問の声が上がる。今日の授業がままならないのは目に見えていた。
「まあそう結論を急がん出くれ。あと、出していた課題だが……」
 言いかけて、先程生徒が示していたノートパソコンの画面が目に入る。
「みんな、同じ時間にメールが来たんだよな?」
 訊くと縦に頷く様子が広がる。課題の提出を知らせるアドレスを記述したプリントを手に取った。
「みんな、悪かったよ」
 教師は一瞬呆れた顔をし、肩を落とす。
「それは宛先が存在しなかった場合にサーバが自動的に送り返すメッセージだ」
 自分のミスが生んでしまった事件に頭を抱える。犯人はメールの仕組みを知らないわけがない生徒達だ。そう、犯人はみんな。
「しかし、ホント、仲のいいクラスだよ」
 誰かが課題が間に合わない。誤植を利用した足並み揃えといったところなのだろう。昨日の内に出したけど……。教室は笑顔だった。

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短編小説第20回、テーマ「みんな」でした。