第18回
短編小説第18回、昔のものの移しです。
「君のはよく分からない」って言われる代表例のような話だなあ……。
個人的には好きなんだけど。
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「プーちゃん、どうしたらいいのかねえ」
そっと頭をなでると、彼は気持ち寄さそうに目を閉じた。室内でも飼うことができるミニ豚。臆病さが自分に似ているようで、連れて帰ってきたものだ。
「3ヶ月目に分かるというのは本当か……」
理香は立ち上がって、届いたばかりのカレンダーをめくった。計算すると大海原が広がる写真の時期に、その日は来てしまうのだろう。
と、ミニ豚がせわしなく動き始めた。誰か帰ってきたのだろう。理香は思う。この子は自分以外には未だに気を許していない。
「なんだ、つけてなかったのか」
寒いなぁ、と身震いしながらこたつに入ったのは、父親だった。「母さんは遅くなるそうだよ」すぐさま、ライターをこすった。
まだなんの決心もついていないのに――。身を案じて別の部屋に移ろうとしている自分が、なんとも滑稽。
「理香」
その背中を父親の声が止めた。
「言いたいことがあるんじゃないのか?」
「ううん。別に」
ある。言わなければならないことが、ある。だけど、だからといって言える話ではない。
「言いたいことがあるなら、一番言いたい人に伝えなさい。でなければ、お前はずっと、その豚のように、怖がったままだ」
見えないはずの父親の顔は、何だか小さな頃のように、大きくて温かいものだった。こういう存在に、自分はなれるのだろうか。
「お父さん、そのカレンダーもらってもいい?」
振り向いて、理香は訊く。
「別に構わんよ。これから何本も届くだろうし」
理香はもう一度、その月をめくった。遠く広がる海。セーターの上から、腹部をなでる。この季節には、自分の分身もここを泳いでいる。豚が興味深そうに、その海を眺めた。
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短編小説第18回、テーマ「イルカ」でした。