第49回

短編小説、抜かしていた第49回です。
なぜ抜かしていたかというと、読んでもらった同僚から、
「内容がっぽいから、クリスマスの時期に公開してみたら?」と
アドバイスを受けていたからです。
是非、読んでください。

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「お兄ちゃん……靴下……プレゼント入るから」妹の声は、いつも以上にたどたどしかった。ビクタは頷くと、ベッドの脇に靴下をつるす。そしてまた汗を拭いてやった。足が布団からはみ出ている。かけ直すと、自然と涙がこぼれた。
「サンタさん、来てくれるかなあ」
「いい子にしてちゃんと寝てれば、夜のうちにきっと来るよ」
 ビクタは無理して笑顔を見せた。誰が妹を病気にしたのだろう。顔は黒く乾き、足には赤い傷が多く見られる。医者ももう、さじを投げた。たとえクリスマスプレゼントがもらえても、次の朝までもたないかもしれない
「ほら、早く寝ないと明日つらいぞ」ビクタは妹の手を握る。
「うん。じゃあ、おやすみ……」妹は目をつむると、消え入るように動きを停めた。
「サイナス……?」ビクタは心配になって、寝息を確かめる。よかった。胸がかすかに上下している。ちゃんと眠る事ができたようだ。……しかし、眠ったまま逝ってしまう事も心配ではあった。苦しんで死ぬのも可哀想だが、お別れを言えないのも悲しい。一番いいのは、病気が回復する事ではあるが。
「プレゼントなんかいらない」ビクタはつぶやく。「元気な妹を下さい。返してください」靴下に向かって祈るように頭を下げた。妹はもう靴下なんて履けないのだ――。さっき目に入った足の傷を思い、また涙が出る。疲れ切ってしまうまで、何度も祈った。
「お兄ちゃん……朝だよ」妹の声で目が覚める。
「サイナス!」ビクタは妹に抱きついた。よかった。また一日猶予が与えられた。それだけでもうれしい。
「何だか、今日は気分がいいの」妹の声に頷く。
「ほら、足も動くんだよ」布団からは傷の消えた真っ白な足がはみ出ていた。

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短編小説第49回、「ソックス」でした。