第12回

昔のものの移しです。

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「由香ちゃん、これもお願いしますね」
 主婦が声をかけると、はぁいと元気な返事が聞こえてきた。何でもよく育ててくれる――小学五年生の少女は、町内では評判の土いじり。病気になった植物でも、すぐに回復させてしまう。背丈が小さすぎることを心配する声もあったが、幼児を対象とした痴漢が頻出している時期でもあり、親同士の結束を高めるいい要素にもなった。
 由香はじょうろを持って、新しい患者に水をかける。何気ない動作にも代謝を促進させるコツがあるようだった。どこから紛れ込んできたのか、子犬がじゃれついてくる。
「あんたも、早く大きくなりなさいよ」
 濡れた手で毛並みを撫でると、甘え噛みをしてくる。由香は微笑んだ。
 由香が怪我をして帰ってきたのは、運動会の予行練習の日だった。体操着のままの少女が、腕に切り傷を負い、頬を腫らしている。
「図工の時間に彫刻刀で切ってしまったの」
 顔の方は運動によって、説明がつくかも知れない。しかし、雨も降らなかったのに、図工の時間? 母親は訝しんだが、譲らない由香についには折れた。シャワーを浴びさせると、下着に血のりを発見する。喜ぶ母親の影で、由香はうっすらと生える股間の毛に、吐き気を覚えていた。
 町内に、痴漢が捕まったというニュースが流れ始める。死亡していた変態の体は、20代半ばのはずが、ミイラのように干からびていたそうだ。死因も老衰。
 程なくして、町内は別の話題で持ちきりになる。年老いた野良犬の死体が数多く現れるようになったこと、そしていつまで経っても、年をとらない女の事だった。彼女は言う。
「娘も育ったことだし、前から研究したいことがあったの。その成果ね」
 尋常じゃなかった。段々丸みを帯びていく娘に似て、母親は若さを取り戻していく。由香は動物にも興味を持ち始めた。

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短編小説、第12回「ぐ」から、
「grow」です。
育つ、栽培する――