第47回

 辺りは本当に真っ暗で、目が慣れることはなかった。お互いの鼻先より向こうに、見えるものはない。ヨシトと智恵美は、地面に座り込んで隠れていた。
「準備はいいか?」ヨシトは小声で訊ねる。
「うるっせえええ、誰に訊いてんだあ?」こうなると、理性を保てない智恵美が答えた。
 ヨシトは手探りで這う。暗闇でも、大体のところは把握してある。触れた金網の向こうに、小さな息遣い。まだ気付かれていない。
「そろそろ午前三時だな」ヨシトは闇の中でさらに目をつむる。
「三時なら、確率十五パーセント、一番高い……来たぞ!」すさまじい獣の声が上がったと同時に、二人は立ち上がった。
「うるああああ、この、ど畜生ぉぉぉぉ」
 暗闇を素早く移動する物体。智恵美は興奮した様子で手を繰り出す。
「バカ。俺まで攻撃するなよ」耳を塞ぎたくなるけたたましい騒動は、「捕まえた!」という、歓喜の声でようやく治まった。
 ヨシトは、懐中電灯で智恵美の手を照らす。
「あ……」リスより少し大きい生き物がいた。
「あわわわ。イタチだったんだああ」智恵美は抵抗を抑えながら、図鑑以外では初めて見る動物に、素直に感動する。
「イテ! 何すんだあああ?」ヨシトはその手を叩いた。落ちたイタチは、慌てて小屋を駆け回り、開けっ放しのドアから出て行く。
「逃げちまったじゃねえかあ!?」智恵美は狂犬のように咽を鳴らした。
「これでオーケーさ。 お前が責任持って殺すのか?」ヨシトはポケットからチュッパチャップスを取り出し、智恵美の口に押し込む。
 小学校で飼っているウサギの小屋が、先日から荒らされていた。イタチのような小動物が二度と上がってこれない深い穴は、ヨシトの仕業だ。
「どうやら、突入は成功したみたいだね」
 小屋の近くで、何かが落下した音が響いた。

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短編小説、テーマ「突入」でした。