第44回

「二人三脚? 違うわね、二人で一つなの」
姉のミカと妹のミキ。大抵の双子がそうかも知れないが、二人はとても仲が良かった。一つのものを分け合い、二倍の満足を得た。
そして、双子とはいえども、二人はあまりにも似過ぎていた。列になって並ぶと、影までぴったりと重なる。横に並ぶと、難易度最高の間違い探しとなるほどだった。
「こればっかりは、どうしようもないね」
 しかし、年頃になると二人で一つともいかなくなった。姉妹は一人の男を愛した。恋人となったのは姉の方で、不幸にも、三人を乗せた車は事故を起こした。
「ミキ、気がついたかい?」
 すがりつき泣いてくる両親。ミキが目を覚まし把握したのは、動かなくなった姉とかろうじて生きている男と自分だった。
 悲しみよりも焦りが、胸を揺さぶる。この場所で、この状況なら――。
「お母さん、私ミキじゃないわ。ミカよ……」
重体だった二人は、病院を出ると一緒に暮らし始めた。
「ミカ、早いところスキーツアーの予約取っとこうぜ」男が後ろから抱きついてくる。
「いくらなんでもまだ九月よ、早くない?」ミキは姉の名前に返事をした。ミカとして世界に溶け込んでから随分経つ。
「こういうのは早い方がいいだろ? 一ヶ月に一回は行くからな」男は笑いながら離れる。再びパンフレットにかじりついた。
 誰も疑わない。本当は、姉ではなく自分がいなくなっているのではないだろうか――。ミキは怖くなって訊ねた。
「妹の事、憶えてる?」
「何?」男は怪訝な顔で振り向いた。
「ミキよ。ほら、私と同じ顔した妹の……」
「ああ、なんだ」
 男は軽く頷く。パンフレットにまた目を落とした。「君の後ろについている人の事か。よく目を凝らさないと、分からないけどね」

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短編小説、第44回「擬態」でした。