第43回

シンデレラというお話を知っているだろうか? ここに、後半部分がよく似た話がある。『この剣を抜いてみせよ』というものだ。先代の王が地中に突き立てたその剣は、どんな屈強な男が挑戦しようとも、ぴくりともしなかった。その不動は、正真正銘の王子にしか、達成できないのでは、と噂が立つほどだ。
 チャレンジャーを無くして久しいある日、何者かが剣の前に腰を下ろした。まわりの住民は、一瞬静まり返り、そしてどよめき立つ。
「……あっはっは。やめとけやめとけ」
「ボーズ、俺だがダメだったんだ。お前みたいなガキには無理だよ」
 挑もうとしているのは、立派な禿頭に太い眉……しかし細い腕の少年だった。真剣ではあるがあどけない横顔に、嘲笑と冷やかしが降ってくる。「かーちゃんのところに帰れー」
 少年は少し背伸びをすると、両手で柄に飛びついた。引き抜くはずの剣に、全体重をかけて押し下げている。
「バカかー、逆だよ逆ー」
 一度静止した剣は、なんと勢い良く反動をつけ地上へと飛び上がった。少年も吹っ飛ばされる。剣は、ついに抜けた。
「な……」呆然とする野次馬達。
「いっきゅうどのー」そこへ、いつもの挑戦者にふさわしいような、ゴツイ青年が現れた。
 一休と呼ばれた少年は、見物人達を一瞥し、申し訳なさそうに頭を下げる。「もう。私がいない間くらい、お遊びを控えていただかないと。みんな困ってるでしょう」
「ええ。助かりましたよ。誰も解けないないから将軍様も拗ねちゃって。お仕事止めて、地位を譲るとか言い出すし」
 引き抜くという行為が大事で、剣そのものには、興味がなかったようだ。二人は連れだって消えていく。訳が分からない野次馬達は、剣があった場所を慌てて覗き込んだ。小さな注意書きがある。「カチリと音がするまで、しっかりと差し込んでください」

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短編小説43回、テーマ「剣」でした。
少しは分かりやすく書けるようになっているだろうか……。
9月14日、友人の指摘により細かい部分を再調整し、アップしてあります。