第40回

転載した第38回「ヤクザ」の原稿料として、
萌え理論Magazineから原稿料10ptを頂いた。
sirouto2氏は、この場を借りてお礼を言いたい。ありがとうございます。
あんな物でポイントをいただけるなんて、恐縮であります。


さて、そうは言ってもまだ評価は(相対的に)低い。
しかし、この短編小説は修業も兼ねているので、
400字詰め2枚の規定を外れる事や、今更一人賞に戻す事はあり得ないわけです。
「よかった」と言ってもらえるように、
また、たいして面白くもないのに原稿料をもらう事がないように、
3回に1回くらいで転載しようかと。

sirouto2氏は気軽に転載してくれとは言ってくれているのですが。

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 重々しい空調が作り出す密室は、二人と彼らの生活の場だ。いや、歴史が染み込んでいると言ってもいい。ドアを閉めると、アーノは白衣のポケットに手を突っ込む。
「やはり、我々の文化をトレースしているようだな」近づくと、ティツは顕微鏡から目を離さずに言った。
「言語くらいは、すでにカバーしてるしな」
 二人の研究対象はミクロの文化を織りなす菌だった。急速な進化を遂げている新種を発見した後は記録のみに追われたまま、論を唱える事も出来ていない。「さっき、オルガンの音が聞こえたよ。もはや、芸術さえも理解してるのかも知れない。……我々と同等の知性を持っているという事か」ティツは自問気味に顔を上げる。アーノは何も言わなかった。目まぐるしく変化を見せるシャーレの中では、現在小さな“大聖堂”*1が建てられている。菌糸が柱……。どこまで人間の歴史をなぞったのかなんて、些事にしか過ぎない――。問題は、なぜそのような事をしているかだ。
 神と見まがう絵画、神話を思わせる音楽。人類が築き上げ、精神面の糧としてきた芸術。ゆえに我々のみが理解できるもののはずだ。感性を持つほどの知能だとしたら――。
「アーノ、俺の仮説を笑ってくれないか……」ティツは青ざめて言う。「こいつらは、理解しようとしているんだ。敵を知ろうとしているんだよ。新しい支配者となるべく」
「少し、違うな」アーノはポケットから手を出し、ティツの肩に置いた。「誕生ではなく、再生なんだ。私らは今までの人類をふまえて、より良い改新の具現化された人間となろうとしているだけなんだよ」
 ティツはその感覚に、振り返る事が出来なかった。「なあティツ、これからは指が六本あった方が便利だと思わないか?」
 重々しい空調が作り出す密室は、彼と彼らの生活の場だ。いや、歴史がまた染み込んでいくと言ってもいい。

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短編小説第40回、いつもながらにテーマはしりとりで決めました。
ルネッサンス

*1:8月4日、文字化けのため修正しました