第39回

「これは、ミイラ化していますね」前のヤマは、異様に高く険しい事件だった。お疲れ様と、コーヒーを傾けているところに呼び出しを喰らう。「そりゃ、見れば分かる」大友は眠たい目をこすりながら悪態をついた。川島は肩を竦めて微笑む。
 大分港の沖、漁船が引き上げた棺らしきモノの中に、やはり遺体が入っていたというのだ。水に当たっていなかったとは言え、腐敗していない。乾燥している。若い刑事でなくても、初めてお目にかかる代物だった。「五百年ほど経っているかもしれませんね」監察医川島の第一印象だ。
「ちょんまげの時代の殺人事件か?」大友は棺を覗き込む。遺骸の両手の指は、交互に組み合わされていた。「頭のてっぺんに、剃り傷のようなものが見られるが?」
「それは、おそらく生前のものでしょう。毒でも塗られない限り致命傷になりませんし」
 大友は棺に付着したコケをはがし取る。とある会の名前。ポルトガル語で考えると……。目を見開いた。「もしかしてだが、あの方じゃないのか?」
「しかし……ホトケさん、今は教会に安置されているはずですよ」
「記録ではな……」
 考えられない事だが、有り得なくもない。
「川島、情報が少ない世界において、伝導者となるメリットはなんだか分かるか?」大友は立ち上がって、棺に背を向けた。
「は? なんです? ヒーローになれるとか?」川島が首を傾げる。
「近いな。情報の本質にたどり着くことが困難な場合、伝えるものがアクター、この場合だと最も神に近い人物になれるからだ」
「そうなると、やはりこの方はサンフラ……」
「サンはいらんだろ」大友は目を細める。優秀一辺倒の川島。中学からの後輩だ。「棺を海に戻せ。聖人は国境を越えて守護をなされている」

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短編小説、第39回テーマ「ザビエル」です。
先にテーマを書いてしまうと、ネタバレになってしまうとのご指摘をいただいたので、
後に添える事にしました。
たたりとか……いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないし、ないよな。