第37回テーマ「牢屋」

萌え理論Magazine編集部
参加させていただいている私ですが、
投稿システムはまだ議論中ですので、果たしてこの「牢屋」が
転載できるのかどうかは未定です。
たくさんの人に読んでほしいから、転載したいけどなー。

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「助けてください……」
 小さな窓がまだ夜を示す時、逸見は目を覚ました。他の囚人達は重なるようにして眠っている。声が聞こえるのはどうやら、自分だけ。何日も続くこの状況は、決して有り難いものではなかった。明日は妻が来る。しっかりと眠って、元気な顔を見せたい。
「君は誰だ?」
 しかし逸見は呟いた。気を狂わせるにはおあつらえ向きの空間。不安は取り除いておきたい。声は、自分が犯したものではない。幽霊ではないはずだ。
「誰でもない」女は小さく答えた。
「そんなことはないだろう」
「……まだ、誰でもない」
「なぜ僕に助けを求める?」
「あなたに殺されるから」
 ここで――? それはもう、無理なことだ。逸見は汗をぬぐう。刑期はまだまだ長い。間違いはもう、二度と起こさない。
「逃げればいい」顔を上げた。「僕は何にもしていない。君を捕まえたりも、していないはずだが?」
「あなたは何もしていない。けど、私は捕まっているようなもの」
 逸見はため息をつく。言っている意味が、よく分からない。それ以上続けずに、再び寝入った。
「少し、痩せたわね……」
 久しぶりに会う妻の顔は、逆にふっくらしていた。
「一人で、辛くないか?」
 見慣れない服装に、視線を逸らす。下腹部は荷物で隠されていたが、膨らんでいるのは明らかだった。
 捕まっているようなもの。あなたに殺されるから――。逸見は、幾度も頷く。
「実は、お話があるの……」
 他の誰かの子であろうとも、堕ろせと言う資格はない。ここでは、できない――。