ギーク

短編小説第34回、テーマ「ギーク」です。
是非読んでください。

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 住宅街の片隅、ちょっと変わった二人の男達が歩いてくる。一人の名前はアルファ。優しいけど芯の強い男だ。もう一人には名前がない。けど、よく喋る事だけはアルファに引けを取らない。二人はいつも証明写真機の下をまさぐり、拾った顔について議論していた。
「この眉は自尊心の強さの現れだよ。こう、吊り上がっている」アルファが勉強の成果を披露する。
「ぼ、僕に言わせれば弱さの隠れみのだよ」名無しは偉ぶった。
「唇がふっくらしているのは、世話好きでもあるんだ」
「そ、それは食生活の乱れが出ているんだよ」
 何事も楽しい二人だった。しかしある日、アルファが拒絶する。「もう僕は君と遊ばないよ」
「どうして? そういう事を言うのは……」
「だって君は他人を否定してばかりだ」
 アルファはきびすを返し、名無しから遠ざかっていく。「そ、そうか。僕が悪かったようだね。仕方ないよ」名前のない方が非を認めた時には、その姿は見えなかった。
 夜が明けても、これまで通りの遊びができると踏んでいた。陽が高くなると名無しは一人で出かけていく。写真機の前で屈むと、周りを取り囲む視線に気がついた。「な、なんだよう!」今までは気にならなかった人の目。好奇とも言い難い白眼視に叫びかけると、答える事なく散っていく。名無しはそのまま倒れ込んだ。「あれ、あれれ?」
 立ち上がってもうまく進めない。どうやら、歩き方が分からない。「君がいなければ僕は何にもできなかったんだね」聞いてくれる人間がいない孤独を、砂利とともに噛みしめた。
 朝早く、変わった男がいた。集めた証明写真を焼く名前のない男。灰をかき寄せ、そこに一本の苗木を植える。持とうとしなかった学術書がその手にあった。「大事に育てるよ。君の事が知りたいんだ」