テーマ「蔵」

短編小説31回、蔵です。
これにて記念すべきはてな市民……かな?
過去の分もきちんと移しますね。

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「アン、いるか? 飯だぞ」
 重たい扉を開くと、埃っぽい匂いとともに、闇が拡散してきた。離れの蔵、父親の言いつけを守って閉じこもっている少女のために、少年は毎日三度の食事を運びに来る。
「ノキ、こっち」声は屋根裏から聞こえてきた。「ここよ」逆光が姿を薄くしている。アンは棺のような大きな箱に座っていた。
「出たくなったか?」ノキは見上げて尋ねた。
「全然。父様が入っていろと言ったんだもの」
 ノキにとっては、伯父に当たる、去年死んだはずの存在。
地震でも来そうな天気ね」手探りの食事を終えると、アンがぼんやりと口を開いた。
「そうやって、僕をここから出さないつもりなんだろう?」ノキはアンの体を丁寧に拭く。手ぬぐいを握る腕に少しだけ力が入った。「私といるの……イヤ?」白さが凝縮し、もはや青い肌。乳房はいつまでもかつぼみを開かない。こんな所に閉じこもっているから――。アンが唇を塞いできた。欲望に任せるノキの脳裏に、生前の伯父の噂が走る。
「結構、大きくなったね」果てた頃に、蔵の内部が軋みを立てて揺れ始めた。
「アンは、僕のことが、好き?」
「好きよ」
「そうじゃなくて! ……その」
「大好きよ、ノキのこと」アンはまたがっていたノキから離れた。「……これからは」
 梯子を上って、先ほどいた窓の近くへと歩み寄る。ずり落ちる着物。凹凸の少ないはずのアンの肢体は、光が当たることによって妖艶に輝いた。
「私はもう成長しすぎたから……ここにいても」
 自分が生まれた時から、アンはこの姿のままだ。もう何年も――。箱のフタが開く。
「だから、あなたとの子供を、父様に差し上げるの」ノキからの角度でも、白く細いものが何なのか、すぐに判別できた。