テーマ「理科」

てことで、移します。
これは第2回。
こういう時「ちょっとした更新」は便利ですね。

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道すがら、男は公園を横切って会社に戻ることにした。無駄に長いこの距離、もはや痛恨の暑さは耐えきれるものではない。
 身を屈め、縦向きの蛇口をひねる。不満足なところで顔を上げた。
「そんなにたくさん飲んで、気持ち悪くならないの?」
 白い、細身を強調するワンピースを着た女の子だった。覗き込むその背丈は、男の半分もないかもしれない。男は気づいていない振りをして、その場を立ち去ろうと考えた。
「それは本当は水じゃないかもしれないんだよ? それなのに、そんなにお腹に含んで大丈夫?」
 まっすぐに訊き、追求してくる。子供ならではのしつこさを、素通りする薄情さは、男には備わっていなかった。
「ねえ、水は百度で沸騰するって知ってる?あなた大人なんだから、知ってるでしょう?でも、それは何年も放置されたこんな公園の水道管を渡ってきたのよ? サビや得体の知れない汚れで違うものになっているかもしれない。そしたらもう、百度で沸騰するってわけにはいかないでしょう?」
「君はまだ小学生のように見えるけど、随分ものを知っているんだね。自由研究かい?」
 語尾を強めて男は答えた。戻れば得意先との進捗を上司に伝えなければならない。ーー気の重い事項を前に、厄介に巻き込まれた。いらいらもするさーー。振り切れない自分を棚に上げる。
「でもね、知ってるよ。どんなに溜め込んでも、あなたは助かるの。条件があるけど」
 女の子は男の口調を素通りして続けた。
「それは何だい? よかったら聞かせてもらえる?」
 ため息を横に飛ばし、観念する。
「信じなければいいのよ。中身なんて考えなくていいの。そこにあるのは水だし、空気は空気でしかないの」