第一回:テーマ「年寄り」

んで、これが一番最初に書いたヤツです。
あんまりチョコチョコ移していると、アクセス稼ぎに思われるから、
一遍に移した方がいいのかしら。

冷えきった空気の中、焼け石に水を落としたかのようなきしみを立て、電車はホームに入ってきた。
 自分以外一人しかいない待ち客が立ち上がるのを横目で確かめると、少年も不気味に開く扉の中へ足を踏み入れる。鼻先まで侵入したところで、熱にほだされた鉄のにおいが歓迎してくれるのがわかった。
 雪国の片田舎、それも街から遠ざかっていく下りの車内。車両に少年以外の客はそれほどない。頑強に茂る白髪の中に、わずかばかりの黒色をにじませる老人。そして買い物帰りなのか、大きなビニール袋を携えた少女二人のみが、鉄の胃袋における、不良消化物だった。
4人がけのボックスシートに、少年も腰を下ろす。のそのそと動き出した窓の外は、近くの風景を、いつのまにかぼやけたものへと変化させていった。
少年は、初めて一人で電車に乗り込んだ。短い彼の人生の中で、電車が特に興味深いものだったわけではない。何となくの日常の中で、この鉄の空洞が、一番の思い出のように感じられたのだ。
 手元にあった350円で往復できるだけの、わずかばかりの感傷。熱を持ちすぎている空気が嫌に染み込んできた。誰かの迷惑になるかもしれないと思いつつも、重たい窓を持ち上げようと試みる。中途半端に止まったところで、手のひらを使いぐっと押し上げた。
「つめて……」
 昨日までの雪が窓につたい、見れば次の居場所を少年の手に求めてきていた。楕円の水滴には、電車の皮膚が赤茶けて含まれている。
「……」 
少年は拳を握り、自分の中に浸透していくよう、じっと動きを止めた。
年上に見える少女たちは、自分よりこの電車になじんでいるようだ。白髪の老人は、この電車と一体化しつつすらあった。