無知という罪を詳細に克明に 本田勝一『リーダーは何をしていたか』

リーダーは何をしていたか (朝日文庫)
本多 勝一
朝日新聞社
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私の友人がよく「無知というのは、暴力だ」「無知はまわりに迷惑をかける」みたいなことを宣っているのだが、そういうわからずやには、彼が千の言葉を弄するよりも、この本を一冊読ませた方が良いだろう。


この本は、登山を舞台に「知らなかったこと」が、如何に人の命を奪ったのか、その事例を詳細に記している。
さすがに著者が本田勝一さんということもあって、その対象が「学校」に絞られているきな臭さもあるのだが、登山を企画、先導しリーダーである人間の無知が、兵器にも匹敵する暴力と言うことがよくわかる。
本当に痛いくらいに。


いわゆる「無知」というのは、「知らなかった」ということではない。
「望まなかった」ということなのだ。


たとえば、Aという山を登ろうとして、どれくらいのことを調べるだろうか?
ルート
標高
入口
天候
休憩所……


私は、登山をする人間ではないから、調べることさえ思いつかない。
しかし、この本に出てくる「リーダー」達が、これとほとんど変わらない知識武装で、山に望んでいることがわかる。


これが、「無知」だ。
わかりやすくいうと、今からやろうとしているタスクに対し、Googleの検索結果1番上に出てきただけの情報で、タスクを遂行しようとしているような状態。
もし「ライオンはネコ科です」という情報を得て、腹を空かせたライオンをなでようと近づいたら、どうなるだろうか?
無知が、どれほど危険な状態が、よくわかってもらえるだろう。


本の中には実際の裁判の様子も書かれてあり、その山にどんな樹木が植生しているのか、あからさまに間違った答弁をしているリーダーの様子も描かれてある。


普段生活していないからこそ登ろうとするからこその山なのだ。
宇宙空間は、酸素がないらしいよ、じゃあ、酸素ボンベ持っていこう。
で、済めば、我々はとうの昔に太陽に降り立っているだろう。


この本の中で、もう一つ隠れたテーマになっていることがあった。
それは、「困難に当たったときに、それを『頑張る』で克服しようとする愚かさ」だ。
確かにそれで解決することもあるだろう。
困難に当たっていると言うことは、その原因があるのだ。
頑張っていれば、何とかなるものではない。
無知は、『頑張る』を引き起こし、人災を招く。


どこかの国の風土のようだと思った。


★★★★☆