決して平行線じゃないけどそれぞれの道 長嶋有『パラレル』

パラレル (文春文庫)
パラレル (文春文庫)
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長嶋 有
文藝春秋
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私としては、本年はじめての「ああ、これはよかったなあ」という本だったけど、決して一般受けはしないと思う小説。
なにせ、燃え上がるような濡れ場もなければ、カタルシスなクライマックスもない。いわゆるセカイ系の本でもない。
思うに、長嶋さんは、そういう本の第一人者かもしれない。


一言でいうと、妻と別れ、仕事も辞めた主人公が徐々に回復していくクロニクル。
ちょっとだけ過去に戻って回想するシーンも織り交ぜながら、いわゆる離人的な状況から、少しずつ立ち直っていく。


「」が終わっても、やりとりが続いている独特の文体に、速読の人は、はじめ苦しむだろう。
他人とのやりとりをちゃんと「噛みしめる」ことができない主人公の一人称を、読む側はするめのように噛みしめて読み進めていく。


しかし、主人公本人は、傷ついていることをそこまで大ぴらに口にしない。
本人に傷が付くような事件があったということは、必ず他の誰かも動いているということ。
誰かが動いて誰かに影響を与え、その影響がまた違う誰かに伝わっていく。


それは決して一つの物語が終わってから、もう一つの物語に進むのではなく、まったくもって同時進行。
誰も待ってはくれない。


一人称の文体で、ひどく個人的な視点ばかりの物言いなのに、ちょっとした群像劇でもあった。


★★★★★