第129回 その1

短編小説第129回、今回は久しぶり?に二回ものとなります。
前編です。
そろそろお正月休みに入って、テレビに飽きていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

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 激しい吐き気の中、ユウカは壁に手をつきながら、ようやく宿舎に戻ってきた。
「気持ちよくトベたか?」
 視界がクリアになるまで時間がかかる。エンジニアのマツナミだった。彼も来週には、パイロットとして飛び立つ。もはやこの基地に、人員補充はない。
 “生かされる”のか、楽に死なせてくれるかは、ユウカにもわからなかった。
「今日も大活躍の夢を見せられたのか?」マツナミは尋ねた。
「四機、撃ち落としたそうだ」
「すげえな。英雄だ」
 ユウカは首を振る。記憶があるだけで、撃ち落とした感覚などまったく残っていない。今日はいったい、誰の記憶を植え付けられたのだろうか。それとも、記憶を作られたのだろうか。
 この国は、未知なる驚異からの攻撃を受けていた。
 正確にはこの地球が。軍のごく一部しか、本当の戦況は知らない。すでに星の大部分が、侵略されたことも。
「お前のいうとおり、私達の頭は弄られているんだろうな」
 マツナミも超一流のエンジニアになった。そういう設定の映像が、二人の頭の中に流れていた。
 本当にそうなら、パイロットの代役を務めるはずがない。戦争に負けることも……。
「真実は、誰が知っているんだろう?」ユウカは、誰ともなく尋ねた。
「あの円盤サマ達じゃねえか?」マツナミは空を指さした。侵略者――今となっては、この星の主がいくつも漂っていた。
 なぜこの基地だけ生き残っているのか。
 軍の幹部、その精神は、すでに“連中”に乗っ取られている。地球人の生態を知るサンプルにされていることを、二人は教えられるわけもなく、肌で感じ取っていた。

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短編小説第129回、前編。
後編へと続きます。