For beautiful human life. 重松清『ビタミンF』

ビタミンF (新潮文庫)
ビタミンF (新潮文庫)
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重松 清
新潮社
売り上げランキング: 20098
単純に「Father」の「F」かな、と思ったら筆者あとがきによれば、「familyやfragileも込めた」とのこと。確かに。
長編でひとつの大作を仕上げるのではなく、さまざまな「父親・夫」が持つ家庭や自身が抱える問題をつまびらかにした短編集になっている。


「父親・夫」と書いたのは、そのまま「男性」側からの視点、意見が中心になっているからだ。
「これは男だから、確かに思うことだよなぁ」と共感させられたり、逆に「まだこの歳になっていない俺には、完全には同情できんね、これ」と首を傾げさせられたりする。
当たり前のことかもしれないけど、ある人から見ると、非常にリアルで、違う人が読むと、対岸の火事なのだ。
これは、勝間和代さんの本『読書進化論』にて述べられていた「他人の人生を疑似体験すること」を語るのに、一番最適な物語かもしれない。


どちらかというと、父親からの視点がほとんどで、ちょっと、いい話に納めようとしすぎたきらいもある。
しかし、例えばあなたが子供の時に、親や先生から「これが正しいこと!」と窘められて、素直に納得できただろうか。その機会は多かっただろうか。(牧師と朝まで生テレビをやっていたような人は、絶対違うだろう)
このお話しにおいても、最後まで解決することは、あんまりないのである。


この「解決」を最後に持ってこなかったおかげで、この物語は、リアルというよりぐっと身近になる。
もしかすると、この世代の方々には、「俺も同じ境遇なんだよ」と、ビタミンを与えるお話しになっているかもしれない。


★★☆☆☆


ちなみに、貫井徳郎さんのこれと合わせて読むと、


いたたまれない気持ちになっていいかも。