マジョリティを記述、言葉選びはセンス 森見 登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

いささかカッコつけすぎなタイトルを付けてしまったが、森見氏を紹介するには、自分でもいい表現ではないか、と思ったりする。


ちょっとした“大人”な方が、著者の本に触れた場合、「なんて奇想天外な生活を送っているのだろう」と考えるのではなかろうか。
しかし、結構オーソドックスな生活なのだ。
殊にわたしがデザイン学科なんて通っていたから、かもしれないが、森見氏の描く大学生活は、至って普通。
面白おかしい生活をフィーチャしているわけではなく、普段から人生を面白いもので取り囲もうとしているのは、大学生なら普通のことだろう。
京大出身者は、いちいち自慢せんでよろしい。
いたってマジョリティを書いているだけなのだ。


さて、本単体の感想になると、
今回も「モテなそうな男子学生」がなんだか不思議ちゃん系の女子学生に想いを告げるために四苦八苦するというストーリィ。
京都を舞台に、ほほえましくチョロチョロと進む恋愛模様で、我々を楽しませてくれる。
「歩けよ」のタイトル通り、ヒロインは、ほぼ歩いていて、その行く先々でイベントが起こるという、ちょっとした「夜のピクニック」。
ちなみに巻末についた羽海野チカさんのイラストは、非常にグッド!
私も同じような映像でこの物語を読んでいた。
(つか、なんだかんだ言って、主人公の「先輩」は、イケメンなんじゃないだろうか……)


相変わらずのドタバタ劇だが、前述したとおり、大学生活においてはそこまで不思議なことでもない。
正直「またこいつらか……」と呆れてしまうキャラ設定、まつわる描写もある。
ただ、森見氏独特の言葉選びのセンスによって、見事な色つけがしてあるからこそ、面白味が出てくるのだ。


その森見節だが、これもひどく現代若者、いや、ちょっと変な若者文語調をそのまま書いたものだ。
しかし、この勇気がうらやましい。
悲しいかな、我々はエラバレシモノではないので、こういう風に自由に書く前に、ある程度普通の文体に直されてきた。
小学校、中学校……と素直に言葉を選べば、選ぶほど「ふざけるな」と怒られてきたものだ。


大人になった今だからこそ、私も含めて、表現に関わるものは「伝わる」という責任をベースに、森見氏的なおもしろさを追求しても良いのではないだろうか。
わかりにくい、と多々言われる私ではあるが。


★★★☆☆