第111回

短編小説第111回となります。

なんだか、すごい点をもらってしまったので緊張しますが、今回からはテクニカルなものよりも純文学というか、純粋な描写に戻るつもりです。
しかも、以前に設定した「ときには連載ものをやる」という練習です。
3回を予定しています。

                                              • -


 今年もいつの間にか年末が近づいた。街にはあわだたしく浮ついた空気流れ始め、百貨店のショーウィンドウは、光度を上げた。
 佐々良(ささら)が目を留めたウィンドウには、四十センチほどのボックスが植物のプタンタのように高さを変えて並び、その中に真珠のネックレスや腕時計がディスプレイされていた。一つ一つが、手首をモチーフにしたガラスの設置台に置かれている。
 熱心に眺めている女性がいて、その顔に見覚えがあった。二十代も残り少ない歳を迎え、その肌は若干うるおいをなくしたように見える。
「橘(たちばな)さん?」
 女性はウィンドウに気を取られたまま、ゆっくりと佐々良の方に顔を向けた。佐々良を見ても、さほど驚かない。眉を少し上げただけだった。
「まあ、久しぶりね……」
 二人は会社の同僚だった。佐々良にとっては数少ない同期。
 橘は結婚し、会社を辞めていた。
「ほしいなら、旦那さんにねだってみなよ」
 緊張が佐々良のへらず口を開かせた。言葉が適切でない、とすぐに気が付いた。
 同僚だった頃の二人は、すれちがっていた。
 橘は愛を告げ、佐々良は断った。
 佐々良が想いを告げたとき、橘は結婚を決めていた。
「私、ネックレスを見てたわけじゃないの。この手首のマネキン? ガラスの置物を見てたのよ」
 そう言われて、佐々良はウィンドウの中をもう一度見た。
 手首の置物は、クリスタルのようで、きれいではある。しかし自宅にあれば、夜中にぎょっとするシロモノに変わるるだろう。
「ねえ、ちょっと歩かない?」
 橘が尋ねてきた。

                                              • -


短編小説第111回、その1でした。
むぅー、3回も楽しませることができるだろうか。


……いや、作者である私は、「楽しめます!」と言うしかない!!