ピクニックって道のりに思い入れがあるもんね 恩田陸『夜のピクニック』

夜のピクニック (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社
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九州で生まれ、大学を宮城県に選んだ私がびっくりしたことの一つが、マラソン大会の代わりにこの「歩行祭」なるものが高校生に課せられていることだった。
宮城県のどの高校でも……ってことでもないかもしれないが、少なくとも私が生まれ育った県では、マラソン以外にありえなかった。


この小説は、1泊2日に及ぶその歩行祭において、異父兄妹(姉弟?)であることがわかった男女がうち解けていく様を描いたものである。

いやあ、びっくりしたね。
『三月は深き紅の淵を』があんまりにもテクニカルな小説だったがために、「きっとこの人はマニアックなんだ。小説好きじゃないと、なかなか分からないような物語を書く人なんだ」ってタカをくくっていた。


400ページを使って1泊2日をふんだんに記述。
恋愛、友情、そして兄妹に対するわだかまりを一見ばらばらに、そして一本の筋に絡み合っていくように見事に展開させている。


プロットとしては、「出来事」はそれほど多くなく、「心情」がほとんどをしめるのだけど、(なんせ1泊2日だし)決して、「ああもう……いいから、先進めろよ」とはちっと思わない。
小説内の情景とは違って、山あり谷ありのストーリィというよりは、結構な一本道。
しかし、友達の一言や自身の体の疲れ、近づいてくるけど、終わってほしくないゴール、といった感じに、情景と心情の変化をうまく絡ませている。すごいのだ。


中高生が読書感想文に選ぶ小説を迷っていたとしたら、今年はこれをおすすめするだろう。
あと、最近忙殺されているという友人も、きっと優しい気持ちに浸かれることうけあい。


★★★★★


ちなみにこれを読んでいると、「海が聞こえる」を思い出した。
こちらも小学生から高校生まで、ぜひぜひ。

海がきこえる (徳間文庫)
氷室 冴子
徳間書店
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