第86回

短篇小説第86回です。
前回が85回で、「付き合う」でしたので、
今回は「う」で始まる言葉です。

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――それではこの子の紹介をしてください。
「はい。父は山形、母は神戸生まれ、自身は東京もんの花子だす!」
「…………」
――緊張されてますね。
「はぁ。こいつはともかく、私が人前に出ることは滅多にないもんで」
――花子ちゃんは、トップモデルとしてパリにまで出向いたことがあるんですよね? アピールをどうぞ。
「ええ、もう、目鼻立ちがぱちっとしていて、端正のとれた体型に育ちました。うちの子が一番、かわいいです」
――確かに。私も前から花子ちゃんのことを存じ上げていたのですが、こうして間近で見ると、なにか神々しいほどの美しさがあります。思わず抱きしめたくなります。
「ああ、やんないほうがいいですよぉ。蹴り入れられます」
――そうですか? おとなしそうなんですが。
「いや、こうして黙ってるけど、神経質なんです」
「………むぅ」
――なるほど。続けて花子ちゃんでよかったっていう自慢をどうぞ。
「こいつには、ずいぶんと儲けさせてもらいました。ホレ、あんた知ってる? これ、ルイっつー人の財布なんだ」
――ルイさんの財布という意味が違うと思います。
「こいつが年間に稼ぐ額が、メジャーリーガ並みだって言われたこともあるんだよ。それは言い過ぎだよね。家は建て直したけど」
――それも疑えないほどのかわいさです。
「えっひゃっひゃっ。そうかい、そうかい?」
――では、最後の質問です。そんなアイドルだった花子ちゃんですが、どうして売りに出されるのですか?
「うんにゃあ、肉牛なんだから、もともと食べられるのが運命さ」

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短篇小説第86回、テーマ「生まれ」でした。
今回が「れ」で終わりましたので、
次は「れ」で始まる言葉です。


これは小説なのか、といわれようとも、
書いちまったもんはしょうがないのさw。


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