第85回
短篇小説第85回です。
一回84回を飛び抜かしていますが、「つ」の
テーマをもらったので、先にこちらをアップ。
テーマをくれた人は、
多分恋愛物を期待したと思いますが、はてさて。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
月の明るい夜、大きなリュックを背負っているシルエットが映った。
男が山道を歩いている。
「すまんな、あと少しだから、もうちょっと我慢してくれ」
彼は妻に話しかけていた。結婚から二十年、小さなケンカはあったが、互いを想う気持ちはむしろ強くなっている。長い悪路に妻の身体を慮っていた。
「こんな俺にずっと付き合ってくれて、ありがとう」
妻は何も答えない。笑みを浮かべ、夫の言うことを黙って聞いていた。
「今回のことが終わったら、ゆっくりしような」
男は死体を捨てに来ていた。大きな荷物は、バラバラにされた人間。四肢を関節ごとに区切り、胴体は三十センチほどに分けていた。丁寧さが伺える仕事ぶりだ。
目的地の山小屋に到着すると、ドアを無理矢理こじ開け、中に侵入した。死体を床に並べる。
「今まで、本当にありがとう」
夫は妻に語りかけ、持ってきていた包丁で自分の胸を突き刺した。妻の頭部を抱えたまま、倒れた――。
「バラバラの死体というのは、奥さんだったんだね?」
話しを遮ると、彼女は瞳を円弧状にして微笑んだ。「奥さんね、自ら死を望んだそうなのよ」そしてそのまま僕の顔をのぞき込んでくる。
つまり、男が妻を殺害したわけではなく、妻の自殺に男が付き合ったと言いたいのだ。この話しを聞くのはもう十五回目だった。
彼女は、僕にどういう返事を期待しているのだろう。きっと、納得のいく言葉が聞けるまで、話しを繰り返すに違いない。
僕にその気がないことに、彼女は気づいていないふりをしていた。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
短篇小説第85回、テーマ「付き合う」でした。
「く」と「つ」の間になるテーマ、第84回は、
また後日にでも。
ふふ、付き合うという行為に関して
こんなことばっかりを考えている訳ではないですよ?
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)