第81回

不定期になりましたが、短篇小説第81回です。
今回のテーマに合う写真がなかなかなかったのですが、
ちょっとシュールに行こうか、と。

                                                                                      • -

「ラブラブのままゴールイン。できちゃった結婚も悪くない?」
 人気女性ファッション誌ギシアン、今月のメイン特集はそんなコピーだった。
 昌子(しょうこ)はうなだれる。ばからしい内容に、ではない。腕はパンパン、足には痣だらけと、身体の痛みに耐えきれなくなったのだ。彼女は格闘家、戦士だった。
「私も引退したい〜。結婚したい〜」
 組織は美少女戦士として彼女をまつりあげている。確かに容姿は絶品だ。きらきらした瞳に涙をため、傷だらけの身体でカストリ雑誌を読みふける姿は、なんだかかわいそうでもあった。
「引退なんて早いだろう。まだ二十歳じゃないか」ドクタがやってきて、彼女に優しく話しかける。昌子は涙目のまま、首を振った。
「この世界じゃ、十分オバさんよ。もうヤ! 愛してくれる旦那様がほしい」
「わがまま言うな。後輩もまだ育ってない」
「女子中学生、用意してるんでしょ?」
「いや、あれは特殊なニーズだから」
「儲けようとしてるだけでしょ〜」昌子は足をばたつかせた。
「ほら、出勤」ドクタは昌子の背中を押す。開くシャッタ、路上に押し出された。
「イー、イー!」黒タイツを着た安い敵たちがまわりを取り囲んだ。
 昌子はいつものステッキを高く掲げる。「美少女戦士らぶ美! 愛と正義の名の下にあなたたちをぬっ殺します!」
「いいぞー、らぶ美ちゃーん!」今度は、途端にリュックを背負った男どもが群がり、カメラを向けた。
「ちくしょう、おまえらが闘えよ」
 愛も変形すると、いびつになる。だが、ドクタによると、こんな路上劇も特定の好みの方々にとっての救いになっているらしい。
「これって暴力なんだけどなあ」昌子ことらぶ美は、黒タイツをまた一人蹴り上げた。

                                                                                      • -


短篇小説第81回、テーマ「ラブ」でした。
テーマを決めてから、
「単純に恋愛ものにはしないぞ」って決めていたので、
難しかったです。




Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)