第78回

短篇小説第78回です。

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「私たちって、死んだ星の光のようね」
 九月ともなると、屋上には涼しい風が吹いてきた。スーパーに売れ残っているスイカが良い味を出さなくなる時期でもある。都心の夜は、星の代わりにオフィスビルの明かりに照らされていた。
「何だって?」良成(よしなり)は尋ねた。
 同年代の入院患者、気の合う二人は、消灯時間の過ぎたベッドをよく抜け出している。梓(あずさ)は腕を広げて風を受け止めていた。
「残された時間のことよ。もう終わっているのに、まだ届けられている」
「そんな……」良成は首を振った。
 星の光の話は良成も知っていた。星が死んでも、過去に放たれた光は律儀に地球に降り注ぐ。終わりまでの時間を、何光年もかけてやってくる。自分たちに残された時間が、そうやって終わりを待つだけのものだと、梓は言いたいのだろう。
「山形に帰ることになったの」
 梓は病状の悪化により、東京のこの病院に運ばれてきていた。山形に帰ると言うことはつまり――。
「僕も行っちゃダメかな?」
 尋ねると梓はさあ、と首を傾げた。「決まってるんじゃない? 私たちの時間は星の光のようなものだから」
「わかるように言ってくれよ」
「はっきり言わせないでよ」
 良成は腕を組んで考える。ここで梓の考えをくみ取ってやれないと、何かが本当に終わってしまう気がした。たとえ、終わっている光だとしても。
「過去のことは、もう決まっているってこと? 僕らには、未来がないから……」
「ヨシの過去は、私と一緒に来てくれた?」
「……ずっと一緒だったよ」
 残りわずかな時間。そこから反転して永遠になれるよう、震えている梓を抱き寄せた。

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短篇小説第78回、テーマ「未来」でした。
嗚呼……。
なんか、私の真骨頂とも言うべき、分かりにくさ全開だなあ、オイ。
でも、こういうのほど、自分は好きだったりするんだよなぁ。


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