第77回

短篇小説第77回です。
70回台ももう、7回目か。

                                                      • -


 長い旅路の果てにジョナサン達は、農の太陽と呼ばれる国にたどり着いた。
 その名の通り、日照時間が長く作物が育つのに非常に適した地域だ。軍事力など持たなくても、農業だけで十分な国力を備えていた。
「ジョナサン、あれは何の団体だろう?」
 仲間の声にジョナサンは双眼鏡を掲げる。城の兵士達が田畑を調査していた。ぼそぼそとだが、声も聞こえた。
「今年の収穫はどうだ、豊作を望めそうか?」
「はい、王様。改良していただきました肥料により、日照りにも耐えられそうです」
「日照りさえなければ、もっとよかったということだな。来年は灌漑施設を作ろう」
「そんな……! これ以上手厚い保護をしていただくのは心苦しゅう思います」
「よいのだ。農の発展が、国を豊かにする」
 なるほど。この国の経済力は、立派な王の賜物か。ジョナサンはひどく感心した。一農民にまで意見を訊くとはなかなかのものだ。
「あの王様は、独特の富国論で有名らしいな」仲間も同じ気持ちのようだ。「しかし、かわいそうだね。農民はかしこまって頭を下げっぱなしだ」
「しかし顔を覆い隠しているのはどうしてだろう?」ジョナサンは訝しげに思う。
「うちの王様は、とても立派なんだがねえ」話が聞こえていたのだろう。違う農民が話しかけてきた。「国を富ますことに、情熱をかけていらっしゃる」
「悪いことはないだろう?」ジョナサンは首を傾げた。
「しかし我々農の民にはいまいち信用がないんだよ。今年の日照りも王様のせいじゃないかと疑うものがある」
「なんと……。君らの王だろう?」
 農民は黙って王の方向を指さす。
 帽子を脱ぎ、禿頭の汗を拭き取る王様がいた。「農業には縁起が悪いんだよなあ」

                                                      • -


短篇小説第77回、テーマ「富」でした。
毎回400字詰め原稿用紙2枚ぴったりに書いているつもりなのですが、
今回1行余っていました。
どうしたことか……。
むーん。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)