第70回

短篇小説、第70回です。
ついに70回。
60回目から長かったような、長くなかったような。
まあ、10回分は書いたぞ、と。

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「いよいよ、リーチですね」母からのメールは、失礼な内容だった。二十九歳を迎え、適齢期を超しそうなことを言っている。
「すみません、退屈でしたか?」席に戻ってきた彼を、ひきつった笑みでごまかした。
 薄暗い照明。いいムード。負けないだけの美貌は健在。友人からどうしても、と頼まれてのデートだ。
 収入は四十代男性の軽く五倍。私がリーチなんて許すものか――。上目遣いに戻った。
「こ、こういう店はよく来るんですか?」
「ええ。金曜の夜なんかは」
「変わ……いいご趣味ですね」
 本当は毎日の主戦場。ここがマイステージ。黙っておく。ワインを勧めると、彼はかちこちになってグラスを持ち上げた。
「私、男性を緊張させてしまうみたいなの」そろそろ、か? 寂しげな視線を投げる。
「い、いえ! そんな事はないのですが」
 サービスで胸元ものぞかせた。
 目を回す彼。今夜はうまくいきそうだ。ほくそ笑む。……今だ!
 先に動いたのは、彼の方だった。「ご、ご、ごめんなさい。トイレ!」
 急に立ち上がり、慌てて店を出ていく。あまりの勢いに椅子が倒れ、激しい音に店内は静まり返った。
「な、何? なんなの?」
「だからぁ、雀荘なんかでデートするからだよ」店長が椅子を起こしにきた。
「だって、ここが一番居心地いいんだもの」
「自分の立場わかってる? ここに来るとバレちゃって、男が震え上がるって」
「恋人候補からむしり取るつもりはないわ」
 店長は肩を落とす。「伝説の賭博師も、恋愛じゃ先に上がられる方か」
「じゃあ今の、リーチ?」
「上がり宣言」
「逃げ宣言じゃない」口を曲げた彼女の戦いは続く。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)

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短篇小説第70回、テーマ「リーチ」でした。
ちなみに私は麻雀のルールを知らないので苦労しました。
しりとりでテーマを決めていると、時々こんなことが起こります。