第48回

 一番嘘つきなのは、作家である――。松本はこの言葉にずっと悩んでいた。自分の職業に難癖をつけられたからではない。ただ単に納得できないのだ。どの辺がそう思われるのだろうか?
「小説家が嘘つきって事は、作話症か……?」松本は呟いた。インターネットを使い、事例を検索してみる。
「いや、これは嘘をつくというよりは、自分をごまかす行為だな」答えは出なかった。「他人まで巻き込んでしまうから、結果として嘘になってしまうのだろう」
 実際の出来事ではない、と断りがあってこそのフィクションだ。空想を嘘と言われたら、小説なんて書けない。そうだ、小説なんて書けない。
「よって、作話症が作家の嘘ということにはならない」松本はタイプした。よい論理展開だ。次の作品が、いいストーリィ展開で進んでいるのが思い浮かぶ。そう、次の作品はきっとペンが進むだろう。
「ミ……ミスディレクションだ!」よだれがひらめかせた。
「読者をはっとさせるためには、ある程度勘違いをさせておく必要がある。これを、嘘だと思われているんだ」寝ぼけた頭では、この考えに間違いがあるようには思えない。すぐさまキーボードを叩く。
「嘘つきと思われるほど、効果的な手法ってことじゃないか。次の作品は、構成全体でミスリーディングさせよう」その前に何か忘れているような気がしたが、どうでも良くなっていた。電話が鳴っている。
「もしもし……ああ、君か」担当の編集者からのコールだった。
「先生、明日が締め切りですが……大丈夫でしょうか?」
「当たり前だ。もうほとんど完成している」
 松本は電話を切ると、慌てて白紙の原稿用紙に向かった。

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短編小説第48回、テーマ「嘘」でした。
ご無沙汰してました。